2005
16
Nov |
●二幕一場面 幕間有り
●登場人物(登場順)
喫茶店「ル・ファール」店主
客の男一
客の女一
客の女二
客の男二
そのほか 大勢の客
まだ、閉じられた幕の後ろから、岸壁に打ち寄せる海鳴りの音が聞こえている。その音がフェイドアウトして、幕が開く。

東急東横線日吉駅前 慶応義塾大学日吉キャンパス並木道
古びた喫茶店の店内。コーヒーサイフォンが置かれたカウンターには席が五つ、テーブル席は三つ。カウンターの中には、二〇セットほどのコーヒーカップが並べられた大きな棚が設けられている。セット自体、同じ形のものはない。
舞台下手には喫茶店の入り口があって、大きなドアベルが吊り下げられているのが目立つ。入り口には客席に向けて「ル・ファール」と書かれた店の看板が置いてある。
照明は満遍なく舞台全体を照らしている。

東急東横線日吉駅前 商店街
カウンターの中では、店主が報杖をついて、ぼんやりしている。客は誰も居ない。
ドアベルが鳴り、男一が入ってくる。
店主、体を起こして客のほうを見る。男一カウンター席に座る。
男一「相変わらず、愛想のない店だな。」
店主「モーニングだろ。」
男一「エスプレッソダブルで、あっカップはあれがいいや。」
店主、体をよじって棚のほうを向くと、指差されたカップを取って軽くぬぐう。
店主「これ、アメリカン用じゃないか。」
男一「じゃ、トリプルで頼むよ。」
店主、ぶつぶつ言いながら、準備を進めエスプレッソマシンを火にかける。しばらくするとコーヒーの良い香りが始める。その間、男一はカウンターの上に並べてあるチラシを手に取って眺めている。
トーストとコーヒーカップをカウンターに置きながら、店主は男一に声を掛ける。
店主(憮然とした表情で)「御待ちどう。」
男一(カップを覗き込んで不満気に)「これでトリプルかい。」
男はチラシを片手にコーヒーをすすり、トーストにかぶりつきながら、チラシを客席に向ける。向けられるとそこには『ジャズの宵』の文字が書いてあるのがわかる。男は、チラシを店主に向けなおして聞く。
男一「これはどうだった?」
店主(チラシをちらと見ながら)「まあまあだったよ、予想より客も入ったし…」
男一「それは良かった。来られなくって残念だったよ。」
店主「スタバやマクドナルドばかりじゃ、ないってこともみせてやらないと…」
男一「確かにスターバックスじゃ、タバコは吸えないからなあ。」
男は灰皿を引き寄せると、タバコに火を点けて、深々と吸う。
店主は、その煙の行方を見詰めている。
男一「で、次は何をやるんだい。」
店主「落語でもどうかと思っているんだが…」
男一「お、いいね、毎度馬鹿馬鹿しいお笑いをひとつってか。」
店主「妙な声を出すんじゃないよ、急に。お客が逃げるじゃないか。」
男一「俺しか居ないくせに…、まあ、客が来ることを祈ってるよ。若い奴らも喜んでいるし。(少し合間を空けて)でも、ここのコーヒーはうまいと思うよ、本当に。」
店主(わざとらしく深々とお辞儀をして)「それはどうも。」
二人はチラシを見ながら、どちらからともなくため息をつく。
ドアベルが勢い良く鳴り、女が二人入ってくる。珍しそうに店内を見回しながら、窓際のテーブル席に座る。
店主「いらっしゃい。」
女一(メニューを見て)「えっと、アイスカフェオレと、」
女ニ(カウンターの方を見て)「アイスコーヒーお願いします。」
店主うなずくと、注文の品を作り始める。男一は新しいタバコに火をつける。女一と二、静かに話し出す。
女一「喫茶店なんて久しぶり。近頃じゃ見かけないものね。」
女ニ「そうね、でもこのあたりにはけっこうまだあるのよ。ほら日吉って大学があるじゃない、だからそのせいらしいんだけど、喫茶店が多いのよ。」
女一「そうなの。『学生街の喫茶店』てわけね、やだ、先輩の持ち歌じゃないの。」
女ニ(近づいて来た店主に気が付き、声を潜めて)「そうそう今時流行らないけど…」
店主、カウンターを出て、注文の品をテーブルに置き、カウンターの中に戻る。女一と二、飲み物を口に運ぶ。
女一(テーブル席にも置かれていたチラシに気が付き)「あれ、これは…『ジャズの宵』?」
男一(タバコを消して、カウンター席から振り返ると)「この店でやっているイベントですよ、お嬢さん方。」
女ニ(チラシを覗き込むと)「へえ~。」
女一(書かれている日付に気が付き)「なんだ先月じゃん。」
女二「アート縁日の日にやったんだね。雨だったし残念会で来れば良かったね~ジャズってなんかいいし…」
男一「アート縁日って、あのポートサイドのお祭り?いろんな芸術を売るって言う…」
女二(カウンターに向くと姿勢をただし)「ええ、あたしたち焼き物を造っているんです。彼女はお皿とかの日用品、あたしは金具とかを組み合わせた置物。使ってもらって楽しい気分になるような焼き物。(苦笑しながら)なかなか売れませんけどね。」
女一「だからこないだのアート縁日も張り切ってお店を出したですけど。二日目は雨で流れちゃって…」
女二「画廊とか借りられるほどお金無いし、すごく期待してたんです。出展する時の抽選だって激戦勝ち抜いたのに…」
男一「それは残念だったね…」
男一は店主にちらりと目配せをする。
男一「ねえ、お嬢さん方、ここは初めてだね。」
女一・二(不思議そうな顔で)「ええ…」
男一「喫茶店なんて珍しいと思うだろう。コーヒーだって紅茶だって、二〇〇円も出せばそれなりのモノが手軽に飲めるし、いつまで居たって追い出される心配のないファミレスだって、そこらじゅうにあるし、何も六五〇円も出してコーヒーを飲みに、しかも、わざわざ煙草臭い店に来ることもないさ。」
女一・二(ばつの悪そうな顔で)「…」
男一「ここのマスターはね、そんな今時流行らない喫茶店を昔からやっている。美味しいコーヒーを飲んでもらおうっていうのは勿論だけど、街の人たちに楽しく過ごしてもらいたいって言ってさ、ドトールとかチェーン店じゃあ絶対出来ない(チラシを手に取りながら)こんな企画をずっとやっているんだよ。しかも若い人たちを集めてね…いままでにやったのは、(指を折って数えながら)
えーと『写真展』。ヌード写真で自分を撮ったやつだったから驚いたね。まあ内容は云わずが華…。
それから『木工細工』と『人形展示』は、その場で作り方の講習会も兼ねたもんだから、木屑とか布切れだの散らかって、後片付けが大変だった。
『詩と朗読の夕べ』。これは、来られなかったからわからないな。
去年だったかな『お月見と影絵』。なかなか風情があったけど、途中で蝋燭が倒れて火事に成りかけたのはまずかった。
先々月には『弦のミニコンサート』。この時は、チェンバロを運び込むんで大騒ぎだったよ。
とまあ、いろいろだけど、若い人たちってのは、本当に思い切ったことをしてくれるから面白い。」
男一が話し出すと、店主、必要も無いのに棚に並べてあるカップとソーサーを、取り出して次々とぬぐい始める。
女一「それじゃあ…」
男一「なんだい?」
女二「あたしたち…」
女一と二、顔を見合わせて、もじもじする。
男一、その様子を見ながらカウンターに背を向けている店主をつつく。
店主、カウンターから向き直ると、テーブル席の方に向かってにっこり笑ってみせる。
店主「で、君たちの展示会はいつにする?」

東急東横線日吉駅前 商店街
照明は、舞台後方から照らし、閉められた舞台の様子を幕に映し出す。
幕の後ろでは、ガタガタと何やらモノを運ぶ音、ゴソゴソと荷物を解く音や「そっちじゃない」とか「こつちこっち」など、賑やかな声がしている。時折、「気を付けて!」と響く女一と二の声も響く。
それらの物音が静かになると、変わってドアベルが賑やかに鳴り始める。同時に、女一と二の声で、変わる代わりに「いらっしゃいませ、ようこそ」と言うのが聞こえて来る。
大勢の足音がして、店に人が入ってくる様子。
入ってきた客たちは、テーブルやカウンターに並べられたモノを見ながら、ガヤガヤと談笑しているのが、影と成って幕に映る。
暫く後、ざわめきが少しずつフェイドアウト。
後方からの照明から、通常の照明に切り替わる。

東急東横線日吉駅前 商店街
テーブル席やカウンター席にも、様々な焼き物が置かれている。古ぼけた壁は華やかな布で覆われ、明るくなった店内は、男一、二、女一、二、その他大勢の若い客で埋まっている。皆で「お疲れさま」と言葉を掛け合っている。
カウンターの中には、店主がいつもと同じように、エプロンを着け立っている。
男二「ほら、マスター一言!」
押されて店主舞台中央に出てくる。
舞台の照明が暗くなり、店主にスポットライトが当たる。
客たちは、照明が暗くなると同時に、袖に下がる。舞台には店主一人だけとなり、語り始まる。
店主「皆さん、今日はここに集まってくれてありがとうございます。私はコーヒーを入れることだけしか能がない男ですが、そんな奴のところで楽しい企画をありがとう。」
男ニの声で「どういたしまして」と合いの手が入り、どっと笑い声と一緒に盛大な拍手が聞こえる。店主頭を掻きながら苦笑いし、話を中断。
拍手が収まるのを待って、店主、話を再開する。
店主「こんなに若い人たちが集まってくれて本当にありがとう。ありがとう、皆さん。
(少し沈黙)今日は、集まってくれた皆さんに少し話を聞いてほしいのです。実は、私には一人息子がおります。皆さんと同じ位の歳の若者です。皆さんと同じように自信に溢れた若者です。怖いものを知らない向こう見ずな若者です。
奴は、こんな古ぼけた喫茶店など、やりたくないと言って、ずいぶん前に出て行きました。時々手紙が来るのですが、夢のような話ばかり書かれていて、今は何処で何をしているのやら、私にはさっぱりわかりません。
もう少し息子の話を聞いてやれば良かったと思うこともあります。せめて息子がいつ帰ってきてもいいように、この店の名のとおり遠くからでも見える「ル・ファール(灯台)」は、閉めずに頑張ってきました。
(一度下を向き、それから顔を上げ)この街も、私が子どもだった頃に比べると、ずいぶんと寂しくなりました。若い人たちが居なくなり、街に活気が無くなりました。息子もそんな街にいてもしようがない。こんな喫茶店などもう潰れるだけだと言っていました。
昔は、この喫茶店も、あなた達ぐらいの人たちでいつも賑やかだったのでした。今日は、まるでその時が戻って来たようです。こんなイベントを続けてどうなるのだと思ったこともありました。もう店を閉めてしまおうと考えたこともありました。でも、今、息子が帰って来たら、ほらみろ、こんなに楽しいことが出来るじゃないかと言ってやります。
なにも街に賑わいを戻そうなんて大それたことを思っているわけではないのです。勿論そうなったら嬉しいです。でも、街も人も変わるのが当然なんです。いろんな人が来て、いろんなことが有って、出会い別れ暮らし明日を迎える。だからいつまでも、変わらずに昔のままがよいのではないと思います。
(もう一度下を向き、それから顔を上げ)ただ、私は息子に言いたいのです。皆さんのおかげで、息子に胸を張って自慢できます。そんな街の小さな『喫茶店』が在っても、面白いじゃないかと…」
店主が深々とお辞儀をして一歩下がると、照明が全灯する。
一瞬の間を於いて、舞台袖から拍手が沸き起こり、それとともに、客たちが次々と舞台中央に出てくる。
店主、客たちに囲まれ照れくさそうに笑っている。
男一はそんな店主の様子に、少し涙ぐんでいる。
女一と二は、盛んにお礼の言葉を述べている。
客たちは口々に面白かった、次は何をしようかと言いながら三々五々ドアから店を出て行く。その度に、勢い良くドアベルが鳴り続けている。
客が全員出て行った後、もう一度、店の中を見回すと、店主、出て行く。ドアベルがカランと一つ鳴って静かになる。
徐々に照明が消されていく。
最後に店の看板を照らしている照明が消されると同時に、真っ暗になった舞台。
突然、ドアベルが勢い良く鳴る。そして、それにかぶせて若い男の声がする。
「とうさん…」
合わせて波の音が鳴り響く。
(了)
●登場人物(登場順)
喫茶店「ル・ファール」店主
客の男一
客の女一
客の女二
客の男二
そのほか 大勢の客
まだ、閉じられた幕の後ろから、岸壁に打ち寄せる海鳴りの音が聞こえている。その音がフェイドアウトして、幕が開く。

東急東横線日吉駅前 慶応義塾大学日吉キャンパス並木道
《開幕》
古びた喫茶店の店内。コーヒーサイフォンが置かれたカウンターには席が五つ、テーブル席は三つ。カウンターの中には、二〇セットほどのコーヒーカップが並べられた大きな棚が設けられている。セット自体、同じ形のものはない。
舞台下手には喫茶店の入り口があって、大きなドアベルが吊り下げられているのが目立つ。入り口には客席に向けて「ル・ファール」と書かれた店の看板が置いてある。
照明は満遍なく舞台全体を照らしている。

東急東横線日吉駅前 商店街
●第一幕
カウンターの中では、店主が報杖をついて、ぼんやりしている。客は誰も居ない。
ドアベルが鳴り、男一が入ってくる。
店主、体を起こして客のほうを見る。男一カウンター席に座る。
男一「相変わらず、愛想のない店だな。」
店主「モーニングだろ。」
男一「エスプレッソダブルで、あっカップはあれがいいや。」
店主、体をよじって棚のほうを向くと、指差されたカップを取って軽くぬぐう。
店主「これ、アメリカン用じゃないか。」
男一「じゃ、トリプルで頼むよ。」
店主、ぶつぶつ言いながら、準備を進めエスプレッソマシンを火にかける。しばらくするとコーヒーの良い香りが始める。その間、男一はカウンターの上に並べてあるチラシを手に取って眺めている。
トーストとコーヒーカップをカウンターに置きながら、店主は男一に声を掛ける。
店主(憮然とした表情で)「御待ちどう。」
男一(カップを覗き込んで不満気に)「これでトリプルかい。」
男はチラシを片手にコーヒーをすすり、トーストにかぶりつきながら、チラシを客席に向ける。向けられるとそこには『ジャズの宵』の文字が書いてあるのがわかる。男は、チラシを店主に向けなおして聞く。
男一「これはどうだった?」
店主(チラシをちらと見ながら)「まあまあだったよ、予想より客も入ったし…」
男一「それは良かった。来られなくって残念だったよ。」
店主「スタバやマクドナルドばかりじゃ、ないってこともみせてやらないと…」
男一「確かにスターバックスじゃ、タバコは吸えないからなあ。」
男は灰皿を引き寄せると、タバコに火を点けて、深々と吸う。
店主は、その煙の行方を見詰めている。
男一「で、次は何をやるんだい。」
店主「落語でもどうかと思っているんだが…」
男一「お、いいね、毎度馬鹿馬鹿しいお笑いをひとつってか。」
店主「妙な声を出すんじゃないよ、急に。お客が逃げるじゃないか。」
男一「俺しか居ないくせに…、まあ、客が来ることを祈ってるよ。若い奴らも喜んでいるし。(少し合間を空けて)でも、ここのコーヒーはうまいと思うよ、本当に。」
店主(わざとらしく深々とお辞儀をして)「それはどうも。」
二人はチラシを見ながら、どちらからともなくため息をつく。
ドアベルが勢い良く鳴り、女が二人入ってくる。珍しそうに店内を見回しながら、窓際のテーブル席に座る。
店主「いらっしゃい。」
女一(メニューを見て)「えっと、アイスカフェオレと、」
女ニ(カウンターの方を見て)「アイスコーヒーお願いします。」
店主うなずくと、注文の品を作り始める。男一は新しいタバコに火をつける。女一と二、静かに話し出す。
女一「喫茶店なんて久しぶり。近頃じゃ見かけないものね。」
女ニ「そうね、でもこのあたりにはけっこうまだあるのよ。ほら日吉って大学があるじゃない、だからそのせいらしいんだけど、喫茶店が多いのよ。」
女一「そうなの。『学生街の喫茶店』てわけね、やだ、先輩の持ち歌じゃないの。」
女ニ(近づいて来た店主に気が付き、声を潜めて)「そうそう今時流行らないけど…」
店主、カウンターを出て、注文の品をテーブルに置き、カウンターの中に戻る。女一と二、飲み物を口に運ぶ。
女一(テーブル席にも置かれていたチラシに気が付き)「あれ、これは…『ジャズの宵』?」
男一(タバコを消して、カウンター席から振り返ると)「この店でやっているイベントですよ、お嬢さん方。」
女ニ(チラシを覗き込むと)「へえ~。」
女一(書かれている日付に気が付き)「なんだ先月じゃん。」
女二「アート縁日の日にやったんだね。雨だったし残念会で来れば良かったね~ジャズってなんかいいし…」
男一「アート縁日って、あのポートサイドのお祭り?いろんな芸術を売るって言う…」
女二(カウンターに向くと姿勢をただし)「ええ、あたしたち焼き物を造っているんです。彼女はお皿とかの日用品、あたしは金具とかを組み合わせた置物。使ってもらって楽しい気分になるような焼き物。(苦笑しながら)なかなか売れませんけどね。」
女一「だからこないだのアート縁日も張り切ってお店を出したですけど。二日目は雨で流れちゃって…」
女二「画廊とか借りられるほどお金無いし、すごく期待してたんです。出展する時の抽選だって激戦勝ち抜いたのに…」
男一「それは残念だったね…」
男一は店主にちらりと目配せをする。
男一「ねえ、お嬢さん方、ここは初めてだね。」
女一・二(不思議そうな顔で)「ええ…」
男一「喫茶店なんて珍しいと思うだろう。コーヒーだって紅茶だって、二〇〇円も出せばそれなりのモノが手軽に飲めるし、いつまで居たって追い出される心配のないファミレスだって、そこらじゅうにあるし、何も六五〇円も出してコーヒーを飲みに、しかも、わざわざ煙草臭い店に来ることもないさ。」
女一・二(ばつの悪そうな顔で)「…」
男一「ここのマスターはね、そんな今時流行らない喫茶店を昔からやっている。美味しいコーヒーを飲んでもらおうっていうのは勿論だけど、街の人たちに楽しく過ごしてもらいたいって言ってさ、ドトールとかチェーン店じゃあ絶対出来ない(チラシを手に取りながら)こんな企画をずっとやっているんだよ。しかも若い人たちを集めてね…いままでにやったのは、(指を折って数えながら)
えーと『写真展』。ヌード写真で自分を撮ったやつだったから驚いたね。まあ内容は云わずが華…。
それから『木工細工』と『人形展示』は、その場で作り方の講習会も兼ねたもんだから、木屑とか布切れだの散らかって、後片付けが大変だった。
『詩と朗読の夕べ』。これは、来られなかったからわからないな。
去年だったかな『お月見と影絵』。なかなか風情があったけど、途中で蝋燭が倒れて火事に成りかけたのはまずかった。
先々月には『弦のミニコンサート』。この時は、チェンバロを運び込むんで大騒ぎだったよ。
とまあ、いろいろだけど、若い人たちってのは、本当に思い切ったことをしてくれるから面白い。」
男一が話し出すと、店主、必要も無いのに棚に並べてあるカップとソーサーを、取り出して次々とぬぐい始める。
女一「それじゃあ…」
男一「なんだい?」
女二「あたしたち…」
女一と二、顔を見合わせて、もじもじする。
男一、その様子を見ながらカウンターに背を向けている店主をつつく。
店主、カウンターから向き直ると、テーブル席の方に向かってにっこり笑ってみせる。
店主「で、君たちの展示会はいつにする?」

東急東横線日吉駅前 商店街
《幕間》(始まる)薄手の幕が閉められている
照明は、舞台後方から照らし、閉められた舞台の様子を幕に映し出す。
幕の後ろでは、ガタガタと何やらモノを運ぶ音、ゴソゴソと荷物を解く音や「そっちじゃない」とか「こつちこっち」など、賑やかな声がしている。時折、「気を付けて!」と響く女一と二の声も響く。
それらの物音が静かになると、変わってドアベルが賑やかに鳴り始める。同時に、女一と二の声で、変わる代わりに「いらっしゃいませ、ようこそ」と言うのが聞こえて来る。
大勢の足音がして、店に人が入ってくる様子。
入ってきた客たちは、テーブルやカウンターに並べられたモノを見ながら、ガヤガヤと談笑しているのが、影と成って幕に映る。
暫く後、ざわめきが少しずつフェイドアウト。
後方からの照明から、通常の照明に切り替わる。
《幕間》(終わる)薄手の幕が開かれる

東急東横線日吉駅前 商店街
●第二幕
テーブル席やカウンター席にも、様々な焼き物が置かれている。古ぼけた壁は華やかな布で覆われ、明るくなった店内は、男一、二、女一、二、その他大勢の若い客で埋まっている。皆で「お疲れさま」と言葉を掛け合っている。
カウンターの中には、店主がいつもと同じように、エプロンを着け立っている。
男二「ほら、マスター一言!」
押されて店主舞台中央に出てくる。
舞台の照明が暗くなり、店主にスポットライトが当たる。
客たちは、照明が暗くなると同時に、袖に下がる。舞台には店主一人だけとなり、語り始まる。
店主「皆さん、今日はここに集まってくれてありがとうございます。私はコーヒーを入れることだけしか能がない男ですが、そんな奴のところで楽しい企画をありがとう。」
男ニの声で「どういたしまして」と合いの手が入り、どっと笑い声と一緒に盛大な拍手が聞こえる。店主頭を掻きながら苦笑いし、話を中断。
拍手が収まるのを待って、店主、話を再開する。
店主「こんなに若い人たちが集まってくれて本当にありがとう。ありがとう、皆さん。
(少し沈黙)今日は、集まってくれた皆さんに少し話を聞いてほしいのです。実は、私には一人息子がおります。皆さんと同じ位の歳の若者です。皆さんと同じように自信に溢れた若者です。怖いものを知らない向こう見ずな若者です。
奴は、こんな古ぼけた喫茶店など、やりたくないと言って、ずいぶん前に出て行きました。時々手紙が来るのですが、夢のような話ばかり書かれていて、今は何処で何をしているのやら、私にはさっぱりわかりません。
もう少し息子の話を聞いてやれば良かったと思うこともあります。せめて息子がいつ帰ってきてもいいように、この店の名のとおり遠くからでも見える「ル・ファール(灯台)」は、閉めずに頑張ってきました。
(一度下を向き、それから顔を上げ)この街も、私が子どもだった頃に比べると、ずいぶんと寂しくなりました。若い人たちが居なくなり、街に活気が無くなりました。息子もそんな街にいてもしようがない。こんな喫茶店などもう潰れるだけだと言っていました。
昔は、この喫茶店も、あなた達ぐらいの人たちでいつも賑やかだったのでした。今日は、まるでその時が戻って来たようです。こんなイベントを続けてどうなるのだと思ったこともありました。もう店を閉めてしまおうと考えたこともありました。でも、今、息子が帰って来たら、ほらみろ、こんなに楽しいことが出来るじゃないかと言ってやります。
なにも街に賑わいを戻そうなんて大それたことを思っているわけではないのです。勿論そうなったら嬉しいです。でも、街も人も変わるのが当然なんです。いろんな人が来て、いろんなことが有って、出会い別れ暮らし明日を迎える。だからいつまでも、変わらずに昔のままがよいのではないと思います。
(もう一度下を向き、それから顔を上げ)ただ、私は息子に言いたいのです。皆さんのおかげで、息子に胸を張って自慢できます。そんな街の小さな『喫茶店』が在っても、面白いじゃないかと…」
店主が深々とお辞儀をして一歩下がると、照明が全灯する。
一瞬の間を於いて、舞台袖から拍手が沸き起こり、それとともに、客たちが次々と舞台中央に出てくる。
店主、客たちに囲まれ照れくさそうに笑っている。
男一はそんな店主の様子に、少し涙ぐんでいる。
女一と二は、盛んにお礼の言葉を述べている。
客たちは口々に面白かった、次は何をしようかと言いながら三々五々ドアから店を出て行く。その度に、勢い良くドアベルが鳴り続けている。
客が全員出て行った後、もう一度、店の中を見回すと、店主、出て行く。ドアベルがカランと一つ鳴って静かになる。
徐々に照明が消されていく。
最後に店の看板を照らしている照明が消されると同時に、真っ暗になった舞台。
突然、ドアベルが勢い良く鳴る。そして、それにかぶせて若い男の声がする。
「とうさん…」
合わせて波の音が鳴り響く。
《閉幕》
(了)
day:1
week:2
total:2970(since 09/may/2005 15:00)
Comments
、、、では、これからちょっくら喫茶店に出かけてきます。たしか35年前に駅前通りから少し入ったところにあったはず。名前は、えーと、そうそう「白鳥」だったな。市内唯一の高校指定の純喫茶。長いことねばっていると、決まって昆布茶が出てきた。まだやってるといいなあ、、、
on 11/17/05 at 13:39:PM
5年ほど通った日吉。ファーストフードやおしゃれな飲み屋、学生用達の定食屋によく行ってました。
純喫茶があるのは知っていましたが、学生にとっては素通りの存在でした。ボッタクリの存在と決め付けていた気がします。
最近になって、やっと純喫茶の良さが理解できてきたという感じです。こういった、学生とのイベントのあるおしゃれで落ち着いた喫茶店があれば是非行ってみたかったですね。
日吉といえば、貸し本屋のダダ書房。結構お世話になりました。
時間があれば今度また寄ってみようと思います。
純喫茶があるのは知っていましたが、学生にとっては素通りの存在でした。ボッタクリの存在と決め付けていた気がします。
最近になって、やっと純喫茶の良さが理解できてきたという感じです。こういった、学生とのイベントのあるおしゃれで落ち着いた喫茶店があれば是非行ってみたかったですね。
日吉といえば、貸し本屋のダダ書房。結構お世話になりました。
時間があれば今度また寄ってみようと思います。
on 11/22/05 at 02:12:AM






