ぼくたちの空(15) - ぼくたちの空とポポの木 by まつざわなおき マチともの語り-地域・物語り・短編小説
2005
09
Aug
Posted by 松沢直樹 on 14:42 / Category : ぼくたちの空とポポの木
遠賀川をこえて、直方、若宮、福間を超えたら、あっという間に博多についた。ほんとに二十分だ。せっかくの新幹線だから、もう少し乗っていたかったけど、ひろえ先生に会いに行くのが目的だから仕方がない。

はかせに手を引っぱられて、博多駅のホームに降りる。
ひろえ先生が入院している九州大学病院は行ったことがなかったけど、博多駅からバスが出ていたので、簡単に行くことができた。

「どきどきしたけど無事についたね。あとはひろえ先生に会って、十二時きっかりに、三人でポポの木の実を食べるだけだ」
「ほんと、無事についてよかった」

「病院に入る前に、ななちゃんの家に電話しておくよ。昨日、図書館から帰った後、ななちゃんから電話がかかってきたんだ。病院に無事についたら電話で知らせてほしいってうるさく言われたからさ。

ずっと朝から電話の前で待ってるんだって。大人にばれるかもしれないからどうしようかと思ったけど、ここまで来たらもうだいじょうぶだろう。電話しないと後がこわそうだから、先に電話してくるよ。ついてきてくれる?」
「うん」

なるほど、ななちゃんならそういうことをいいそうだ。病院の入口にある公衆電話に近づくと、はかせは電話をかけた。ぼくは後ろで聞いてたけど、かんだかい大阪弁のななちゃんの声が電話ボックスの外まで聞こえてきたので、思わずわらってしまった。

「これからみんなを広場に集めて、予定通り十二時きっかりにポポの木の実を食べるって。ひろえ先生にも十二時きっかりにポポの木の実を食べてもらってほしいってさ。間に合わんかったら、帰ってきてからしょうちせんでえってすごい声でおこられた」

ぼくたちは声をあげてわらった。

「さあ、病院の中に入ろう。受付の人にお願いして、おじさんを呼んでもらうようにするよ。ついてきて」

はかせの後について、病院の入口に入る。入口に入ると、すごく広くてきれいな待合室があって、その奥に受付があった。受付のおねえさんに、はかせが何かをしゃべってるけど、なんだかさっぱりわからない。

「おじさんを呼んでもらった。すぐに来てもらえるから、ここで待っててだってさ。いすに座って待ってようか」

はかせに言う通り、いすに座って待つことにした。それから五分くらいたっただろうか。はかせにそっくりな顔をしたお医者さんが、ろうかの向こうからやってきた。白い服を着て、首からちょうしんきを下げている。

「あれがぼくのおじさんだよ。ひろえ先生に会わせてもらえるようにお願いしてある。行こうか」

「昨日は電話がかかってきてびっくりしたよ。あれ? この子は?」

「はじめまして、古川君と同じクラスで藤原靖洋といいます。今日はひろえ先生のおみまいをゆるしてくださって、ありがとうございます」

自分でも変なあいさつの仕方だと思った。でも、きちんとあいさつしないで、ひろえ先生に会わせてもらえなかったらこまる。

「そうかそうか、じゃあ、二人でクラスを代表して小倉からやってきたっちゃな。えらいのお。男気があるばい。

さっそく横川先生に会ってもらいたいとやけど、その前に二人に話がある。奥に食堂があるから、そこでジュースでも飲みながら大事なことを話そう。じゃあ、二人ともついてきて」

ジュースなんかいらないのに。それよりも早くひろえ先生に会いたいよ。それにしても話ってなんだろう。ぼくとはかせは顔を見合わせた。

「まあいいや。行こう」
「うん」

はかせの後について歩いていく。病院のゴムのろうかはすごく歩きにくい。消毒のにおいがぷんぷんする中を歩いて、ぼくたち三人は食堂の中に入った。

「コーラがオレンジジュースしかないけど、二人ともオレンジジュースでいいかな?」
「あ、はい」
「おじさん。ジュースはいいよ。それよりもどうしたの? すぐに先生に会わせてくれるって話じゃない?」

「まあ、座りんしゃい。大事なことを話すから」

「はい」

ぼくとはかせは、テーブルをはさんで、先生の前に座った。先生はオレンジジュースを目の前に置いてくれたけど、全然飲む気がしなかった。

「おじさん。ジュースなんかいらないよ。はやくひろえ先生に会わせてよ」
「まあ、飲みながら聞きんしゃい。横川先生がどげな病気にかかっとるかちゅうことは、全学年の子に伝えるようにしてもらったって、ご本人から聞いた。二人とも、横川先生がどげな病気にかかっとるかは知っとるな」

「白血病っていう病気でしょう? 治すのがすごくむずかしいって聞いた」

「そうやな。この病気は、なおすのがすごくむずかしい。こまったことに、ふつうの人やったらなんてことない庭の土とか、外の空気とかに体がさらされただけで、たちまち具合が悪くなってしまう。それは知っとったか?」

「昨日、古川君に教えてもらいました」
ぼくがそう言うと、先生はうでぐみをした。

「そうか、わかった。つまりやな、おみまいはできる。ばってん、そのままのかっこやったら、ちょっとまずいとたい。

君たちがこうしてここに座っとるわけやけど、体には目に見えないばいきんが体にいっぱいついとる。それを落としてからやないと、横川先生には会えんとたい。

めいわくかもしらんが、これからシャワーに入ってもらって、ぼくと一緒の白衣、あ、この白い服な、これを着てもらわんといかん。それだけやなか。マスクと髪の毛をとめるぼうしをかぶってもらわんといかん。

つまり、横川先生に、そのままの顔は見せらんけど、それでもよかや?」

「はい。かまいません。いいよね? 靖洋君」
はかせの言葉に、ぼくはうなずくしかなかった。

「おじさん、もう一つお願いがあるんですけど、クラスのみんなでせんばづると寄せ書きを作ったんだ。これはわたしていい?」

「一度、消毒してからになるけどな。お前たちがシャワーをあびとる間に、看護婦さんにお願いしておこう」

「ありがとう、おじさん。それからもう一つお願いしたいんだけど」

「なんか? 注文が多いみまい客やのう」
先生はわらっていた。ぼくとはかせは、顔を見合わせてうなずくと、同時に話した。

「ポポの木の実を先生に食べさせたいんです。どうか横川先生に差し入れするのをゆるしてください」

「ポポの木の実? なんじゃそりゃ?」

はかせが、ポポの木の実のことを話してくれた。昨日の登校日に、横川先生とクラスのみんなでポポの木の実を食べようってやくそくしていたこと。

それが無理になったので、博多と小倉で別々になるけど、今日の十二時にポポの木の実を同時に食べることで、みんながいつまでも友だちでいられるようにしようって考えたことを話してくれた。

「うーん、話はわかったが、食べ物はちょっとのお。しかも自然に生えとったやつやろう? 消毒をきちんとしても、どげなことになるかわからんし」

「おねがいします。もう時間がないんです。十二時きっかりじゃないと意味がないんです」

ぼくとはかせが何度もお願いしたけど、先生はうでぐみをしたままだった。

「古川先生、ここで何をしているのかね」

その時だった。ぼくたちの後ろで、年を取った男の人の声がした。






※現在、病院などで看護職に就いていらっしゃる方は、「看護師」と呼称が統一されていますが、当時は女性の看護職の方を看護婦、男性の看護職を看護士と呼ぶのが一般的でしたので、ここではその名称を使っています。ご了承ください

 



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