2005
11
Aug |
Posted by 松沢直樹 on
02:03 / Category : ぼくたちの空とポポの木
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「やめんかい、おっさん。きたない手をはなせ」
「いてっ、こいつかみつきやがった」
作業員のおじさんに引きずりおろされそうになっても、ぼくたちはあきらめなかった。ひっかいたり、かみついたりして、作業員のおじさんの手からすりぬけると、ポポの木の上にのぼった。
クラスの半分以上の子は、作業員のおじさんに取り押さえられてしまった。無事にポポの木の上にのぼれたのは、クラスの半分の子だった。女の子は、ななちゃんだけだった。
「みんな、おりてきなさい。ポポの木のことは、なんとかしてもらえるように校長先生からおねがいしてみる。あぶないから、降りてきなさい」
校長先生が下でさけんだ。
「みんな、降りてくるんやないぞ。おりてきたとたん、こいつら、ポポの木を切りたおすつもりや」
やんきちが下からさけぶ声が聞こえた。その後、作業員のおじさんが「だまれ」って大きな声で、やんきちをおこる声が聞こえた。
やんきちの言う通りだ。ぜったいにおりるもんか。
「何やの? あの音」
ななちゃんの声で、ぼくも気付いた。遠くからサイレンの音が聞こえてきた。だんだん原っぱに近づいてくる。赤い色のランプがついた車だった。パトカーと消防車だった。それだけじゃない。大人たちがぞろぞろ原っぱに集まってきていた。
「木の上にのぼってる小学生のみなさん。聞いてください。みんな君たちのことを心配しています。危ないですから、どうか降りてきてください」
おまわりさんがパトカーから降りてきて、マイクでしゃべっていた。
「どうしよう。大変なことになった」木の上で、ぼくたちは目を見合わせたけど、だれもおりようとは言わなかった。
そのうち、背広を着た人が何人かの大人と原っぱに入ってきた。校長先生と話をしている。
「木の上にのぼっている小学生のみなさん、聞いてください。原っぱをなくしたくないみんなの気持ちはよくわかるけど、ここは町のみんなのために病院を建てないといけないんだ。
みんなも具合が悪くて、病院に行ったことがあるでしょう? 今、小倉の町は病院が足らなくて、夜中に具合が悪くなった時、遠くの病院に行かないといけない人がたくさんいます。
赤ちゃんやお年寄りの人が、苦しい思いをしないですむように、ここに病院を建てることにしたんです。
どうかわかってください。それにそんなことをして、横川先生はどう思うでしょうか? みんなのために病院を建てようとしているのに、君たちがじゃまするのを横川先生はどう思って見ていらっしゃるでしょうか?」
そうだ。ひろえ先生は、けんかが大きらいだった。ポポの木をまもるためといって、大人たちとけんかするのを、ひろえ先生は悲しんでいるんじゃないだろうか。
やっぱり、木からおりよう。ポポの木をあきらめないといけないのは残念だけど、ひろえ先生が悲しむことはしたくない。
みんなにそう言おうとした時だった。ななちゃんがとつぜん大声でさけんだ。
「いやや、大人たちはみんな勝手や」
下でマイクでしゃべっているおじさんよりも大きな声だった。ななちゃんの声を聞いて、原っぱにいる大人も子どもも、みんな静かになってしまった。
「ほんまに大人は勝手や。ひろえ先生が死んでしもたんも、大人が勝手にせんそうをはじめて原爆を落としたからや。
クラスのみんなが、ばらばらになるのだってそうや。うち、ほんとは大阪なんかに帰りたない。でも、お父ちゃんの仕事のせいで、転校せなあかんのや。大人のせいで、うちらは、ばらばらにされるんや。ほんまに大人は勝手や。
病院を建てることだってそうやないか。もともと病気になる人が増えたんは、勝手にあちこち工場を建てて、きたないけむりをばらまいたからやんか。
みんなみんな、大人が勝手なことしたせいやんか。大人が勝手なことをしたせいで、なんで子どもがいやな思いばっかせなあかんねん。
クラスをばらばらにされて、原っぱを取り上げられて、おまけにポポの木を取り上げられて、どれだけうちらの大事なものを取り上げたら気がすむんや。このポポの木だけはぜったいにわたせん。この木はなあ……」
「知ってるよ」
下にいたおじさんが、マイクをおいて大声でさけんだ。
「知ってるよ。ポポの木だろう? 友だちといっしょに食べると、なかなおりができて、いつまでも友だちでいられるんだろう。ぼくも小学生の時、横川先生とその木の実を食べたから」
ななちゃんは、急にだまってしまった。
「君たちは今日、みんなでポポの木の実を食べたんだってね。君たちはどう思うか分からないけど、ぼくは君たちのことを友だちだと思っているよ。ここには病院を建てなきゃいけないけど、ぼくはポポの木を切り倒したりするつもりはないし、ぜったいにそんなことはさせない。だから、どうか降りてきてくれないか」
みんな、木の上で、顔を見合わせてしまった。
みんなだまったままだった。
ぼくは、ポポの木の実を一つ取ると、ゆっくりと木を降りた。
「靖洋君」
「だいじょうぶ。ななちゃん、ぼくにまかせておいて」
ぼくは木をおりると、ゆっくり背広のおじさんに近づいた。おじさんの向こうには、おまわりさんや、消防士さんがこわい顔をして立っている。
「よくおりてきてくれたね。ありがとう」
「これ、ポポの木の実です。おりる時にとってきました。さっきのことが本当なら、これを大人のみんなでわけて食べてください」
「わかった。校長先生、それから、警察や消防の方、それから工事の担当の方、ちょっと集まって下さい」
そう言うと、背広のおじさんは、大人たちにポポの木の実を分けて食べさせてくれた。みんな、急にやさしい顔になった。
「なんですな。まあ、子ども相手に大人げなかったですな」
工事のおじさんが頭をかいた。
「そうですね。子どもの安全確保とはいえ、警察や消防が出てくることで、かえって大変なことになってしまったように思います」
おまわりさんも消防士さんも、はずかしそうに、頭をかいていた。背広のおじさんが何かを話すと、おまわりさんと消防士さんは、校長先生に何かを話すと、帰ってしまった。そのうち、工事のおじさんたちも、集まってきていた大人たちも、みんな帰ってしまった。
「これでしんじてくれるかな?」
「ポポの木はどうなると?」
「ここは病院を建てなきゃいけないから、ポポの木をここに置いておくわけにはいかないんだ。
それに、ここで手入れもされずにほったらかしにされるのはかわいそうだからね。どこかの公園に植えてもらおうと思うんだけど、どうかな?」
「ほんとに? 切り倒したりせんと?」
「約束するよ。ぼくもポポの木がなくなるのはいやだからね。今日は工事の人に帰ってもらう。
明日みんなの見ている前で、ポポの木を掘り起こして、工事のおじさんたちにポポの木をどこかの公園に運んでもらおう。もちろん、君たちにもついてきてもらう。どうだい?」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
「おおい、みんな降りておいで。ポポの木は切り倒さないって。どこかの公園に植えてもらうって」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。だから工事のおじさんたち、帰っちゃっただろ?」
少し暗くなってきていたので、木の上からだと、そのことに気付かなかったらしい。木の上から、原っぱ全体を見回して工事のおじさんたちがいなくなったことに気付くと、みんなおりてきた。
「おじさん、ほんまにポポの木を切り倒したりせえへんの?」
「そんなことしないよ。さっきポポの木の実を食べるのを見てなかったのかな? おまわりさんも消防士さんも、工事のおじさんたちも、みんなの友だちになったんだよ」
木の上にのぼっていたみんなと、工事のおじさんたちに木から引きずり降ろされてしまったクラスの友だちが走り寄ってきた。
そうして、背広のおじさんを囲んで、みんなでありがとうって何度もお礼を言った。
「うれしいけど、なんだかくすぐったいな」
おじさんがそう言うと、みんな大声でわらった。空を見上げると、ふだんは工場のけむりで見えない星が、たくさん空にうかんでいた。
「いてっ、こいつかみつきやがった」
作業員のおじさんに引きずりおろされそうになっても、ぼくたちはあきらめなかった。ひっかいたり、かみついたりして、作業員のおじさんの手からすりぬけると、ポポの木の上にのぼった。
クラスの半分以上の子は、作業員のおじさんに取り押さえられてしまった。無事にポポの木の上にのぼれたのは、クラスの半分の子だった。女の子は、ななちゃんだけだった。
「みんな、おりてきなさい。ポポの木のことは、なんとかしてもらえるように校長先生からおねがいしてみる。あぶないから、降りてきなさい」
校長先生が下でさけんだ。
「みんな、降りてくるんやないぞ。おりてきたとたん、こいつら、ポポの木を切りたおすつもりや」
やんきちが下からさけぶ声が聞こえた。その後、作業員のおじさんが「だまれ」って大きな声で、やんきちをおこる声が聞こえた。
やんきちの言う通りだ。ぜったいにおりるもんか。
「何やの? あの音」
ななちゃんの声で、ぼくも気付いた。遠くからサイレンの音が聞こえてきた。だんだん原っぱに近づいてくる。赤い色のランプがついた車だった。パトカーと消防車だった。それだけじゃない。大人たちがぞろぞろ原っぱに集まってきていた。
「木の上にのぼってる小学生のみなさん。聞いてください。みんな君たちのことを心配しています。危ないですから、どうか降りてきてください」
おまわりさんがパトカーから降りてきて、マイクでしゃべっていた。
「どうしよう。大変なことになった」木の上で、ぼくたちは目を見合わせたけど、だれもおりようとは言わなかった。
そのうち、背広を着た人が何人かの大人と原っぱに入ってきた。校長先生と話をしている。
「木の上にのぼっている小学生のみなさん、聞いてください。原っぱをなくしたくないみんなの気持ちはよくわかるけど、ここは町のみんなのために病院を建てないといけないんだ。
みんなも具合が悪くて、病院に行ったことがあるでしょう? 今、小倉の町は病院が足らなくて、夜中に具合が悪くなった時、遠くの病院に行かないといけない人がたくさんいます。
赤ちゃんやお年寄りの人が、苦しい思いをしないですむように、ここに病院を建てることにしたんです。
どうかわかってください。それにそんなことをして、横川先生はどう思うでしょうか? みんなのために病院を建てようとしているのに、君たちがじゃまするのを横川先生はどう思って見ていらっしゃるでしょうか?」
そうだ。ひろえ先生は、けんかが大きらいだった。ポポの木をまもるためといって、大人たちとけんかするのを、ひろえ先生は悲しんでいるんじゃないだろうか。
やっぱり、木からおりよう。ポポの木をあきらめないといけないのは残念だけど、ひろえ先生が悲しむことはしたくない。
みんなにそう言おうとした時だった。ななちゃんがとつぜん大声でさけんだ。
「いやや、大人たちはみんな勝手や」
下でマイクでしゃべっているおじさんよりも大きな声だった。ななちゃんの声を聞いて、原っぱにいる大人も子どもも、みんな静かになってしまった。
「ほんまに大人は勝手や。ひろえ先生が死んでしもたんも、大人が勝手にせんそうをはじめて原爆を落としたからや。
クラスのみんなが、ばらばらになるのだってそうや。うち、ほんとは大阪なんかに帰りたない。でも、お父ちゃんの仕事のせいで、転校せなあかんのや。大人のせいで、うちらは、ばらばらにされるんや。ほんまに大人は勝手や。
病院を建てることだってそうやないか。もともと病気になる人が増えたんは、勝手にあちこち工場を建てて、きたないけむりをばらまいたからやんか。
みんなみんな、大人が勝手なことしたせいやんか。大人が勝手なことをしたせいで、なんで子どもがいやな思いばっかせなあかんねん。
クラスをばらばらにされて、原っぱを取り上げられて、おまけにポポの木を取り上げられて、どれだけうちらの大事なものを取り上げたら気がすむんや。このポポの木だけはぜったいにわたせん。この木はなあ……」
「知ってるよ」
下にいたおじさんが、マイクをおいて大声でさけんだ。
「知ってるよ。ポポの木だろう? 友だちといっしょに食べると、なかなおりができて、いつまでも友だちでいられるんだろう。ぼくも小学生の時、横川先生とその木の実を食べたから」
ななちゃんは、急にだまってしまった。
「君たちは今日、みんなでポポの木の実を食べたんだってね。君たちはどう思うか分からないけど、ぼくは君たちのことを友だちだと思っているよ。ここには病院を建てなきゃいけないけど、ぼくはポポの木を切り倒したりするつもりはないし、ぜったいにそんなことはさせない。だから、どうか降りてきてくれないか」
みんな、木の上で、顔を見合わせてしまった。
みんなだまったままだった。
ぼくは、ポポの木の実を一つ取ると、ゆっくりと木を降りた。
「靖洋君」
「だいじょうぶ。ななちゃん、ぼくにまかせておいて」
ぼくは木をおりると、ゆっくり背広のおじさんに近づいた。おじさんの向こうには、おまわりさんや、消防士さんがこわい顔をして立っている。
「よくおりてきてくれたね。ありがとう」
「これ、ポポの木の実です。おりる時にとってきました。さっきのことが本当なら、これを大人のみんなでわけて食べてください」
「わかった。校長先生、それから、警察や消防の方、それから工事の担当の方、ちょっと集まって下さい」
そう言うと、背広のおじさんは、大人たちにポポの木の実を分けて食べさせてくれた。みんな、急にやさしい顔になった。
「なんですな。まあ、子ども相手に大人げなかったですな」
工事のおじさんが頭をかいた。
「そうですね。子どもの安全確保とはいえ、警察や消防が出てくることで、かえって大変なことになってしまったように思います」
おまわりさんも消防士さんも、はずかしそうに、頭をかいていた。背広のおじさんが何かを話すと、おまわりさんと消防士さんは、校長先生に何かを話すと、帰ってしまった。そのうち、工事のおじさんたちも、集まってきていた大人たちも、みんな帰ってしまった。
「これでしんじてくれるかな?」
「ポポの木はどうなると?」
「ここは病院を建てなきゃいけないから、ポポの木をここに置いておくわけにはいかないんだ。
それに、ここで手入れもされずにほったらかしにされるのはかわいそうだからね。どこかの公園に植えてもらおうと思うんだけど、どうかな?」
「ほんとに? 切り倒したりせんと?」
「約束するよ。ぼくもポポの木がなくなるのはいやだからね。今日は工事の人に帰ってもらう。
明日みんなの見ている前で、ポポの木を掘り起こして、工事のおじさんたちにポポの木をどこかの公園に運んでもらおう。もちろん、君たちにもついてきてもらう。どうだい?」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
「おおい、みんな降りておいで。ポポの木は切り倒さないって。どこかの公園に植えてもらうって」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。だから工事のおじさんたち、帰っちゃっただろ?」
少し暗くなってきていたので、木の上からだと、そのことに気付かなかったらしい。木の上から、原っぱ全体を見回して工事のおじさんたちがいなくなったことに気付くと、みんなおりてきた。
「おじさん、ほんまにポポの木を切り倒したりせえへんの?」
「そんなことしないよ。さっきポポの木の実を食べるのを見てなかったのかな? おまわりさんも消防士さんも、工事のおじさんたちも、みんなの友だちになったんだよ」
木の上にのぼっていたみんなと、工事のおじさんたちに木から引きずり降ろされてしまったクラスの友だちが走り寄ってきた。
そうして、背広のおじさんを囲んで、みんなでありがとうって何度もお礼を言った。
「うれしいけど、なんだかくすぐったいな」
おじさんがそう言うと、みんな大声でわらった。空を見上げると、ふだんは工場のけむりで見えない星が、たくさん空にうかんでいた。
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