2005
08
Oct |
テレビゲームをしていたら達也が来た。二人で遊んでいると慎吾が来た。そうこうする内に征二も現れた。勇太は三人に提案した。
「おい、工場に行ってみないか?」
「工場って?」と慎吾が訊く。
「おれ知ってるよ。倒産して空き家になってるとこだろ?」と達也。
「そうさ。みんなで探検に行こうぜ」
「大丈夫かな?」と征二は好奇心と心配が半々の口調だ。
「なんてことないさ。そうだ、中はきっと暗いだろうから明かりが要るな」
勇太は懐中電灯を探したが見つからないので、仏壇にあった蝋燭とマッチをポケットに入れた。そうして四人は閉鎖されている木工所跡に出かけていった。
冬独特の低い曇り空が広がっていたが、遠くの空の一部は明るくなっており、銀色の光線が射し下りているのが見えた。
なだらかな坂を登っていくと、かなり広い敷地に灰色の建物が数棟ひっそりと横たわっていた。彼らは事務所らしき建物の前まで行った。
鍵がかかっていたので、達也がそばにころがっていた石でドアのガラスを割った。辺りに鋭角の音が響き渡った。内側から鍵を開けて四人は内部に入った。奥に進むと社長室があった。中はやはり薄暗く、勇太は持ってきた蝋燭にマッチで点火した。そうして床にあったプラスチック板に蝋を垂らして本体を固定した。揺らめく炎を囲んだ四つの顔が薄闇に浮かび上がった。
勇太の両親は彼が五歳のときに離婚した。母親は実家のある町に勇太の妹と住み、彼は父親とこの町に暮らしていた。一年ほど前に父は勤め先の会社からリストラされた。小さな町故に再就職先もおいそれとは見つからず、父はやむなく都会に出稼ぎに行った。残された勇太は祖母と共に留守を守っていた。中学に上がったとはいえ、勇太にとって父の不在が寂しくないわけはなかった。
「こうしていると冒険映画のヒーローになった気にならないか?」と慎吾が言う。
「おれは、火を見ていると何となく落ち着くな」
勇太は蝋燭をもう一本点けながら答える。
「もし火事になったらどうする?」と征二が気弱な顔をする。
「何かの本に書いてあったが、火は浄化のシンボルらしい」
仲間内ではいちばん物知りの達也が言う。
「浄化か。つまり、きれいにするってことだろ?」
勇太はそうつぶやいて、灯した蝋燭を机の上に固定した。それから、さらに数本点けて部屋のあちこちに置いた。ゆらゆら揺れる炎は、四人をこの世でない場所にいるような気にさせた。
いつの間にか一本の蝋燭が倒れ、近くにあった紙屑に燃え移った。なぜか誰もその火をすぐに消そうとはしなかった。炎は、たちまち勢いを増して、床や壁や天井を舐めるように進み始めた。
バチバチッという音と共に空気が唸り、辺りは濃いオレンジ色に輝いた。気温が急激に上昇し、煙が渦巻くのが見えた。冒険映画のヒーローなら、こんなときどうするだろうか、なんて慎吾は考えているのかな? 勇太がそう思って慎吾を見ると、彼は口と目を大きく開けたまま突っ立っていた。他の二人も同様に呆然と立ち竦んでいる。
勇太は不思議に怖くなかった。体は耐え難いほどの熱さを感じているのに、目の前に広がる光景をなぜが懐かしいと感じていた。そうか、おれは安心したかったんだ。大いなるものに包まれて。ずっと寂しかったから。
炎を映す勇太の涙が頬を伝う。
「おい、工場に行ってみないか?」
「工場って?」と慎吾が訊く。
「おれ知ってるよ。倒産して空き家になってるとこだろ?」と達也。
「そうさ。みんなで探検に行こうぜ」
「大丈夫かな?」と征二は好奇心と心配が半々の口調だ。
「なんてことないさ。そうだ、中はきっと暗いだろうから明かりが要るな」
勇太は懐中電灯を探したが見つからないので、仏壇にあった蝋燭とマッチをポケットに入れた。そうして四人は閉鎖されている木工所跡に出かけていった。
冬独特の低い曇り空が広がっていたが、遠くの空の一部は明るくなっており、銀色の光線が射し下りているのが見えた。
なだらかな坂を登っていくと、かなり広い敷地に灰色の建物が数棟ひっそりと横たわっていた。彼らは事務所らしき建物の前まで行った。
鍵がかかっていたので、達也がそばにころがっていた石でドアのガラスを割った。辺りに鋭角の音が響き渡った。内側から鍵を開けて四人は内部に入った。奥に進むと社長室があった。中はやはり薄暗く、勇太は持ってきた蝋燭にマッチで点火した。そうして床にあったプラスチック板に蝋を垂らして本体を固定した。揺らめく炎を囲んだ四つの顔が薄闇に浮かび上がった。
勇太の両親は彼が五歳のときに離婚した。母親は実家のある町に勇太の妹と住み、彼は父親とこの町に暮らしていた。一年ほど前に父は勤め先の会社からリストラされた。小さな町故に再就職先もおいそれとは見つからず、父はやむなく都会に出稼ぎに行った。残された勇太は祖母と共に留守を守っていた。中学に上がったとはいえ、勇太にとって父の不在が寂しくないわけはなかった。
「こうしていると冒険映画のヒーローになった気にならないか?」と慎吾が言う。
「おれは、火を見ていると何となく落ち着くな」
勇太は蝋燭をもう一本点けながら答える。
「もし火事になったらどうする?」と征二が気弱な顔をする。
「何かの本に書いてあったが、火は浄化のシンボルらしい」
仲間内ではいちばん物知りの達也が言う。
「浄化か。つまり、きれいにするってことだろ?」
勇太はそうつぶやいて、灯した蝋燭を机の上に固定した。それから、さらに数本点けて部屋のあちこちに置いた。ゆらゆら揺れる炎は、四人をこの世でない場所にいるような気にさせた。
いつの間にか一本の蝋燭が倒れ、近くにあった紙屑に燃え移った。なぜか誰もその火をすぐに消そうとはしなかった。炎は、たちまち勢いを増して、床や壁や天井を舐めるように進み始めた。
バチバチッという音と共に空気が唸り、辺りは濃いオレンジ色に輝いた。気温が急激に上昇し、煙が渦巻くのが見えた。冒険映画のヒーローなら、こんなときどうするだろうか、なんて慎吾は考えているのかな? 勇太がそう思って慎吾を見ると、彼は口と目を大きく開けたまま突っ立っていた。他の二人も同様に呆然と立ち竦んでいる。
勇太は不思議に怖くなかった。体は耐え難いほどの熱さを感じているのに、目の前に広がる光景をなぜが懐かしいと感じていた。そうか、おれは安心したかったんだ。大いなるものに包まれて。ずっと寂しかったから。
炎を映す勇太の涙が頬を伝う。
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