ただ今の気温35℃(17)恋人は騒音と共に - ただ今の気温35℃ by 水野粋香 マチともの語り-地域・物語り・短編小説
ただ今の気温35℃ あらすじ
 主人公のジンは大学生。彼は夏期休暇を利用して行う合宿の行き先を決めるサークルの集まりで、「出身地である真珠島に、実は彼女が居る」と嘘をついてしまう。その話を盗み聞きしていたジンの元彼女のナギサは合宿の行き先に真珠島を提案する。慌てたジンは必死に反対をするが、その努力も空しく、多数決の結果合宿の行き先は真珠島に決まってしまう。
 慌てたジンは四年ぶりに幼なじみであるココに電話をかけ、「ほんの二週間でいいから俺の彼女を演じてくれ!」と頼み込む。初めは文句を言っていたココも、「自分をフッた彼女を見返してやりたい」というジンに同情し、ジンの彼女を演じる事を承諾してくれた。
 真珠島へ向かう船の中、皆の話題は島に住むジンの彼女の事で盛り上がる。そんな中、ジンは生まれてから中学校までを共に過ごしたココとの思い出を振り返っていた。
 ジンとココは互いに想いを寄せていたが、結局それをきちんと伝えられぬまま別れを迎えた。「お互い五十歳になったら一緒になろう」という約束を残して。

2005
21
May
Posted by 水野粋香 on 23:13 / Category : ただ今の気温35℃
「とりあえずバスに乗ろうぜ、ジン」
 タクはジンの肩を叩くと、バスに向かっていった。
 ジンはジーンズのポケットに手を突っ込んで、俯いたままバスへと向かった。ふと、窓越しに視線を感じて立ち止まり、顔を上げた。ガラス一枚挟んだ向こう側で、ナギサは「やっぱりね」とでも言いたげに含み笑いをしながらこちらを見ていた。ジンは唇を噛み、ナギサをきっと睨むと、再び足をドアへと向かわせた。
 その時、タクは何かに気付いたようにぴくりと眉を動かすと、体をくるっと回転させた。
「あれ?お前の彼女って、あれじゃないか?」
 タクはジンの真後ろを、真っ直ぐに指差していた。
「ほら、絶対そうだって!」
 ジンは不安げにタクを見ると、躊躇しながらもゆっくりと後を振り向いた。
「ひゅー、グラマーじゃん。お前の彼女」
 タクが真っ直ぐに指差したその先には、花柄のエプロンを着けてどすどすとこちらに向かって歩いて来る、赤いTシャツの太ったオバサンの姿があった。
「・・・・・殴っていいかな?」
 ジンは片手でグーを作り、それをタクの頭に向けた。
「冗談だって、おい、ちょっと待て!バカ、本気にすんなよっ」
 ジンは逃げ回るタクに向かって、拳を突きつけた。タクは団扇を盾にして、ジンからの攻撃を必死に防御していた。
「おい、いいからお前ら早く乗れって」
 カイは半ギレ口調でそう言うと、バスの外に飛び出してきた。
「お前らみたいな集団行動を守れない問題児が居るとなあ、リーダーの俺が一番苦労すんだよ!まったくもう。明日の練習後のモップかけはお前らふたりに決定だ。分かったか!」
「やだ!」
「やだじゃねーよ。みんなの迷惑も考えろ!このハゲ」
 カイはジンとタクの頭を叩き、首根っこをむんずと掴むと、ずるずるとバスに引きずっていった。
「ほら見ろよ、お前のせいで怒られたじゃねーか。ハゲてねーのにハゲとか言われたしよー。モップがけもしなきゃいけねーしよー。大体彼女がさっさと迎えに来てりゃ、こんな事にならなかったんだよ」
「・・・・・悪ぃ」
「っつーかさあ、なんでお前の彼女来ねーんだ?おかしくねえ?実は付き合ってると思ってんのはお前だけなんじゃねーの?」
 くくっと笑うタクの横で、ジンの頬がぴくっと痙攣した。とっさに返事を返せなかったジンとタクの間に、数秒の沈黙が流れる。その一瞬が、タクに疑問の種を植え付けた。
「え、ちょっと待って。何でそんなに顔がひきつってんの?もしかして、お前ウソついてたって事?」
「・・・・・いや、そういう訳じゃ・・・・・」
 弁解しようと口を開いたジンの脳裏に、ふと、不穏な考えがよぎる。
 ココの性格上、約束を破ったりはしないはずだ。少なくとも、以前のココはそうだった。
 でも、年月は人を変える。ココも四年間の間に、いろいろと変わっているかもしれない。性格とか、俺に対する感情とか。
もしかしたら、全く連絡をしなかった俺に腹を立てて、そのあてつけの為に今回の頼みを引き受けたのだろうか?その可能性も、全く無いとは言い切れない。
「おい、ジン。黙ってないで何とか言えよ」
 弁解しようにも、時、既に遅し。タクの顔は明らかに、ジンに対しての不信感を表していた。
・ ・・・・どうやってこの場を取り繕えばいいんだ。
 ジンが必死に言い訳を考えていた、その時だった。
 突然、きらりと光る眩しい何かが視界の隅に飛び込んできた。
「・・・・・何だ?あれ」
 突然、カイは足を止めた。
「どーした?」
 タクが尋ねる。
「ほら、あそこ」
 カイが指差した先には、黒光りするでっかいバイクが港に向かって走っている姿があった。
 俺の記憶が確かなら、あのバイクはヤマハのドラッグスター。バイク好きなヤツなら、一度はどこかで目にした事があるだろう。
 ツーリング目的の観光客だろうか?海沿いの道を走る為だけに、わざわざ船にバイクを乗っけて来る観光客は、真珠島では珍しくない。
 ジンは目を凝らしてバイクに乗っている人物を見詰めた。華奢な体格、細い肩の線。驚いた事に、どうやら女の子が乗っているようだ。彼女はブンブンと豪快なエンジン音を響かせながら、猛スピードで港に向かう県道を走り続けていた。
「おい、危なくねーか?あのバイク」
 カイはジンの耳元で呟いた。確かに、あの速さ。尋常のスピードじゃない。
 バイクはいきなり急角度で方向転換をすると、ジン達の方向を向いてぴたりと止まった。黄色い砂埃が、ぶわっと宙に舞う。ブオンっと大きくエンジンをふかすと、そのバイクはジン達を目がけて突進してきた。
 瞬きごとにそのスピードは加速してゆく。暴れ馬のような唸り声をあげながら、激しい砂埃を舞い上げている。もうブレーキかけなきゃヤバイんじゃないの?という位置にきても、そいつは全くスピードを緩めようとする気配を見せなかった。黒い塊は、次第にこちらへと近づいてくる。
「危ねえっ!逃げろっ」
 カイが大声で叫んだ。
 さすが、現役バスケ部。反射神経のいいカイとタクはジンを残してとっさにバスへと飛び乗った。ジンは全く動く事ができなかった。まるでライオンに狙われたシマウマのように、両足の筋肉は硬直し、ぴくりとも身動きがとれなかった。
 その一瞬の判断が命取りとなった。
 逃げ遅れたジンの目の前に、ライオンは大きな口を開けてみるみる近づいてくる。
 やばい、はねられるっ!
 ジンはとっさに後ずさりした。バランスを崩したジンは大きく転倒し、焼けたコンクリートの上にばたっと倒れ込んだ。顔を上げたジンの目の前に、迫り来る大きなタイヤが見えた。背筋にビシッと冷たい緊張感が走る。巻き上げられた細かい砂粒が顔面に飛んできた時、ジンは思わず神に祈った。
 頼むっ、まだ死にたくないっ!
 キキキーッという、バカでかいブレーキ音。とうとう耐えられなくなって瞼をぐっと閉じた時、タイヤはジンの股間近くまで迫っていた。ジンは迫り来る衝撃に耐えようと、体をぎゅっと縮めていた。ジンばかりでなく、この場に居た全員が、この時彼は死んだと思っただろう。
 バリバリバリッと、空気を切り裂いて鳴り響いていたエンジン音が、ぴたりと止む。
 一瞬、無音の世界になる。
 次第に体の感覚が戻るにつれて、どくどくという胸の鼓動が聞こえてきた。
 背中にびっしりとかいた汗の冷たさ。ぎゅっと握った手の平の、爪の突き刺さった感触。
 それを感じた瞬間、体の奥底から、溢れんばかりの安堵感が湧き上がった。
 良かった。俺はまだ生きている。
 ・・・・・って、安心してる場合じゃねーよ。
 ジンは顔を覆っていた腕を下ろすと、自分の命を脅かした憎たらしいドラッグスターとその上の人物をキッっと睨んだ。
「てっめー、何すんだよ!危ねーじゃねーか」
 白いタンクトップの上に赤いアロハシャツを羽織ったそいつは、首もとのベルトを外すとゆっくりとヘルメットを脱いだ。逆光に目が慣れるにつれて、少しずつあらわになってくる厚めのぽってりとした唇。その上にツンっと立つ鼻筋。目元を覆っていた大きなサングラスが彼女の大きな瞳を外にさらした時、やっと分かった。
「うっさいわねえー。それが久々に会った彼女に言う言葉?」
「・・・・・え?」
 彼女は切りっぱなしのデニムのホットパンツから伸びた長い足を、うんしょっと持ち上げてバイクから降り、ウエスタンブーツをカタカタと鳴らしながら、ジンの方へと近づいてきた。
「ハーイ、ダーリン。会いたかったわん」
 彼女はそう言って、ジンに向かって投げキッスした。
「・・・・・ココ?」
 ジンは地面にしりもちをついたまま、その彼女を指差して言った。
「そうよ」
 それは、紛れも無くココだった。
 中学校の頃とのあまりの変貌ぶりに、ジンは戸惑っていた。目、鼻、口、その配置は決して変わっていない。だが、これは本当にあのココなのか?と疑いたくなるほど、少女の頃のあどけなさは微塵も無く、ココは大人の女性へと美しく変身していた。
ココはジンの顔を覗き込んだ。
 前のめりになったココの、以前は洗濯板のように平べったかった胸は、ストレッチ素材のぴったりとした布地を形良く持ち上げており、くっきりと浮かび上がった鎖骨からは、いやらしくない健康的な色気が放出されていた。いつもふたつに分けて結んでいた黒髪は、栗色のボブショートに変わっており、耳元にはラインストーンのピアスが、日の光を反射してきらきらと揺れていた。
「何よう、その化け物を見るような目は」
 ココはジンの前にすっとしゃがみ込み、目を見ながらにっこりと笑った。首にかけているネックレスのチャームが、ココの動きに合わせてかちゃかちゃと弾んだ音を立てた。生命の危機を思いっきり味わったジンの心臓は、まだ、ドキドキしていた。やっとのことで深呼吸すると、ジンは戸惑いながらも差し出されたココの手を取った。
「おいっ、ジン、大丈夫か?」
 タクは慌ててバスから降りると、ジンの元へ向かった。それにつられて、他のメンバーもわらわらと野次馬となってバスを降りてきた。その中にはナギサの姿もあった。ナギサは心配そうにジンを見ていたが、ココの存在に気付いた瞬間、くっと顔を強張らせた。
・ ・・・・誰なの?この女。
 そんなナギサをよそ目に、ココはすっくと立ち上がり、皆に向かってこう言った。
「皆さん、真珠島へようこそ!はじめまして。私、ジンの彼女のココです!」
 ココはにっこりと眩しい笑顔を放った。
 ずきゅんっと、その場に居た男性陣の心臓部が打ち抜かれる。まるでグラビアから抜け出たかのようなその笑顔に、皆ぐらりと体を揺らしてぼーっとなっている。
 ジンはあっけに取られてその様子を見ていた。
 さすが、元ミス珊瑚なだけある。その計算された笑顔には、一瞬の隙も無い。
 ココは後ろ手でずばっとピースを作り、自分の手柄をジンに向かってアピールしていた。
 やるねえ、ココ。
 ジンは声をかける代わりに、ココに向かって小さく口笛を吹いた。
 そこへすかざず、人を押し分けてタクが前へとしゃしゃり出た。
「いやあー、どうもどうも。ココちゃん?初めまして、俺、タクです」
 タクはココの右手を無理やり掴むと、空中でブンブンと振ってみせた。
「ああ、あなたが!ジンから話はきいてるわ。何時間も船に揺られて、大変だったでしょう」
「いや、本当に。まっさかこんなに遠いとは思わなかったから、船の中ですること無くてさあ、退屈で退屈で死にそうだったよ。って言うか、ねえ、本当に、ジンの彼女なの?」
 タクはココの顔をじっと見ながら言った。
「ええ、そうよ」
 ココは横目でジンをちらりと見た。タクは恨めしそうにジンを睨んでいる。何とか胸の動悸も治まり、落ち着きを取り戻したジンはココへと近づいた。
「調子合わせろよ」
 耳元で呟いたジンに向かって、ココはぱちんっと素早く上下の睫毛をくっつけて小声で言った。
「任せといてよ」
 ジンはココの肩に馴れ馴れしく手を乗っけると、斜め四十五度の角度からタクに余裕の表情を向けた。
 タクは何か言いたげな目で、ジンをじっと睨みつけている。
「何だよ、タク」
 ジンはふんぞり返ってタクを見て、それからココへと目を向けた。ココはにっこりと口元に微笑をたたえて、愛しいものを見詰めるような穏やかな表情をジンに向けていた。
「何でもねえよっ」
 ジンとココの即興の演出に、期待通りにまんまと引っかかったタクは、その顔にあからさまに不快感を表しながら、ジンに向かって半ギレの口調でそう言った。
「ねえ、ジン。うちのおじいちゃんがさあ、ジンに会いたいんだって。久しぶりにね、ジンの顔が見たいって言うの」
 ココはそう言って、ジンのTシャツを掴んでくっくっと引っ張り、上目遣いでジンを見た。
 げっ、かわいい。
 これが演技だという事は頭では理解していたものの、ジンは思わずそう思ってしまった。ハの字に下がった眉毛の下の潤んだ大きな瞳は、すがりつく子犬のようにジンの目だけを見詰めていた。第一、ココがこんな甘えた声を出したのを、ジンは今まで一度も聞いた事が無かった。
 ココはジンのTシャツを、やりすぎなぐらいぐりぐりと捻じると、猫のように体に擦り寄ってきた。皆の視線は、ハイビスカスのネイルで飾られたココの手元に釘付けになっていた。
「そんな事言ったって、なあ?」
 ジンは参ったなあという表情を作って頭を掻いた。そして横目でちらりとタクを見た。
「いいよいいよ、行ってこいよ!お前の荷物は、俺が運んどいてやるよ!」
 タクはやけくそにそう言うと、団扇をばたつかせてしっしっとジンを追い払った。
「じゃあ皆さん、ちょっとジンを借りていきますね?」
 ココはジンの胸元を掴むと、ぐぐっと自分の方へと引き寄せた。
「行ってこいよ、ジン。かわいい彼女の頼みだったら、断れねーだろ?」
 カイがジンに声をかけた。
「そうそう、こんなモノで良ければ、どうぞどうぞ」
 タクはジンの背中を団扇でバタバタと叩き、ココの方へと差し出した。
「ごめんね、後できちんと返すから」
 ココは片手を顔の前に立てた。
「おいおい、何だそのやり取りは。俺は隣ん家の味噌じゃねーぞ」
「いいから、ジン。ほらほら、早く乗って」
 ココはジンに向かってヘルメットを放り投げた。ジンはぶつくさと文句を言いながら、ココのバイクの後ろにまたがった。
「じゃ、皆さん。またお会いしましょう」
 ココはにっこりと笑うと、ぶおんっとエンジンをかけた。ジンは日に焼けて熱を持ったシートに腰を降ろし、少し戸惑いながらもココの腰を掴んだ。片手で十分足りてしまうぐらいのココの腰は、とてもほっそりと頼りなかった。
 ヘルメットを被るその瞬間、ナギサと目が合う。ナギサはあからさまに視線をジンから逸らすと、それを遠くの海へと向けた。
 自分は全く関心が無いと、ジンに見せ付けているかのように。
 ジンはナギサから目を逸らすと、ココを抱く手に更に強く力を込めた。
「ジン、夜までには戻って来いよっ」
 バイクが前を通過する時、カイは手を上げてジンに言った。
「了解!」
 ジンはカイの手を叩いた。
 ココのバイクの後ろにまたがって、皆の好奇の視線をその一身に受けながら、ジンは最高に気分が良かった。
 バイクはどんどん加速して、次第にバスとの距離は遠のいていく。
「ジーン!」
 遠くでタクの声がする。ジンは体をねじって後を見た。
 次第に遠くなっていく港では、小さくなっていくタクが、ジンに向かって思いっきり中指を突き立てていた。

 



day:1 week:3 total:2321(since 09/may/2005 15:00)


水野
最近読者が少ない・・・・・。
だらだらと長い話だから飽きられてるのかしら?
よろしければダメ出ししてください。
覚悟はできてます。
どうぞ好きなだけ私をぶってっ!(M)
on 05/25/05 at 22:42:PM
それでは。パチーン!
on 05/26/05 at 08:05:AM
水野
ああ、もっと。
次はリッケン620使って頂戴。

じゃなくて。
黒岩さんちゃんとダメ出してくださいよお~。
on 05/26/05 at 23:00:PM