百年の禍根 - エディット・ピラフ マチともの語り-地域・物語り・短編小説
2006
22
Apr
Posted by MAO(野知潤一) on 12:09 / Category : エディット・ピラフ
竹島を巡っての日韓の対立で日本海波高し。
この遠因は何処にあるかといえば、百年前に遡る。

▽内田良平「日韓合邦回想録」より
 而して茲に余が千秋の恨事とし、百年の禍根を遺したりとするものは、初め一進会の合邦を主唱するに至りたる目的は、大東合邦即ち亜細亜聯邦を組織せんとするの抱負に出で、之が一着手として先づ日韓両国の合邦を行ひ、範を亜細亜全民族に示し、一進会の大衆をして満洲に移住せしめ、以て漸次満蒙における鞏固なる地歩を作り、以て日支提携の媒介者となり、以て両国人を団結せしむるに在りしを以て、予め多数の会員を間島地方に派遣して之が準備に従はしめ、合邦成立後に於ける経綸の素地既に整ひ居りたるなり。

 故に宋乗唆及び余は、桂首相に対し、合邦善後策として満洲移住資金百五十万円の下賜を懇請したるに、首相ほ共計画に賛成し、其の位の金ほ愚か千万円を投ずるも差支なしと答へられたるにより、李容九も宋乗唆も前途に多大なる期待を抱き、驀然として合邦の成立に猛進せしものなり。

 然るに一旦合邦の成立するや、首相の言質は蹤縦の追躡すべきなく、一進会解散費として、寺内総督より下賜せられたる金額ほ僅かに十五万円に過ぎず、会員一人宛十五銭の少額に止り、全く分配不可能の悲劇をすら生じたるも、李容九は多年運動の餘に出でたる病勢昂進のため、入院中にて如何ともする能はず、宋乗唆の智略を以てするたりしぞ。

 彼等は合邦にして実現せば、其の悪魔視せし貴族は滅亡し、数百年来虐政の為めに誅求官没せられたる財産は回収するを得んと待望せしにも係はらず、貴族は日本の華族となりて巨額の恩賜金を得たるも、下民は全く得る所の余沢なきを以て、頗る不満を抱くに至り、貴族も亦彼等の生命とせる政治的権勢の地位を失ひ、不平忿懣押へんと欲して押へ難き情を洩すに至れり。

 況んや合邦の際、一進会以外の諸団体にして、合邦の議に賛し、一進会と協力運動したるものありしも、之等に対しては一も表彰することなく、又た明治初年以来、日本党たるの故を以て殺害せられ、或は亡命せる幾多志士の生存者及び遺族に対しても何等の顧みる所なく、身を以て国に許し日本と存亡を倶にせんとしたる者にして、之に酬いられしもの殆どあることなく、日韓合邦は何の因縁に由つて発生し、誰の提唱によつて成立したるか、其れ等の原因を不問としたるのみならず、陛下の御盛徳を幕ひ其赤子たることを請願し来りたる、前古未曾有の美挙を抹殺せんとして、其請願書に用ゐたる合邦の文字すら故らに棄却し去り、之れに代ふるに侵略的意味に解せらるる併合の文字を択びたるが如き、或は韓国と称する日本と大由緒ある国号を変じて、漢人遠征の記念として名づけられたる朝鮮の称号に改悪せしが如き、幾多有意無意に行ほれたる杜撰に至つては、之がために韓人の精神的和合を害ひたること幾何なるを知らず。

 之れ実に千秋の恨事といふべく、百年の禍根を達したるものたること覇者を俟たずして明らかなるべし。

黒龍会の内田良平は、その死の枕元で「お父上の素志を実現できなかったばかりか、同志を裏切った思い、誠に申し訳なかった」と李容九の遺児へ詫びる手紙を書いたと伝えられている。

 



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