胡蓉のケータイコミック版『夜宴―The Banquet―』の誕生まで - エディット・ピラフ マチともの語り-地域・物語り・短編小説
2007
02
Jun
Posted by MAO(野知潤一) on 14:50 / Category : エディット・ピラフ
 今年の正月、年賀状を整理していた小苗が「胡蓉から来ているよ」と嬉しそうに報告した。
 胡蓉は中国を代表する女性漫画家、ぼくらが彼女と知り合ったのは1996年末か1997年の春節前、とにかく冬の寒い日に彼女の自宅を訪問し、作品を見せてもらいながらインタビューをし、その後、皆で餃子パーティをしたっけ……、あれからもう十年か……、と回想にひたりながら年賀状の電話番号へ掛けてみると、「お久しぶり!」、元気な胡蓉の声が返ってきた。
 年賀状に書いてあったちょっと相談したいことって何? と尋ねるとちょっと興奮した早口でチャン・ツィー・イー主演で昨年中国で公開され評判になっている『夜宴―The Banquet―』を漫画化したこと、それの日本語版を出版できないだろうか、というこだった。
漫画版『夜宴―The Banquet―』について

 昨年の夏、北京に滞在していた私に、突然友人からの電話がありました。今すぐ、一冊の漫画を描いてほしいとの依頼でした。それは、近日中に公開される映画「夜宴」の漫画版の制作です。
 九月九日の初日舞台挨拶の際に、来賓の方々へのプレゼントとして5千部を配るのに間に合わせるため、与えられた時間はわずか1ヶ月。
 このような厳しい時間の中で、考える暇もなくすぐに制作を始めました。会社の十数名で、一ヶ月にわたり徹夜の作業が続きました。寝食のすべてを1つの部屋で済ませました。一日十数時間の作業だったので、メンバーのうち新人だった数人は、漫画の仕事がいかに苦しいことかを味わうことになりました。彼らたちに漫画の技術を教えながら、精神面でも彼らを励ましながらの作業となりました。
 一ヶ月後、作品が完成しました。短期間でこの作品を仕上げたことで、会社の社員にはよい訓練となりました。単に技術の向上ができただけではなく、精神的にも強靭な人間へと成長できました。
 九月九日の初日の舞台挨拶の際に観賞することになりました。漫画を描く時には映画の映像資料がなく、与えられたのは脚本のみでした。映画を見て、私は驚きました。それはたくさんの映画の画面と、漫画の画面は、似ていたからです。やはり創作をする人間は、同じ感触を持ってイメージするのではないかと感じました。
 私は、中国から日本へ来て九年目になりました。主演女優のチャン・ツィー・イーさんは、私が日本に来てから、人気が出た女優です。日本に来て二年目に、彼女主演の映画「初恋の来た道」で、彼女の事を知りました。清楚な面と艶やかな面がもち演技力が深くどのような役でもこなす女優です。

 今回、彼女主演の映画の漫画を描くことができ、大変嬉しく感じています。
2007年2月 
胡蓉

 胡蓉は中国を代表する実力派の女流漫画家。伝統の連環画の手法を発展させ、細い毛筆の柔らかな線で人物を描き、背景はペン画の細密描写という独自のスタイルを持っている。
 中国ですでにそのスタイルを完成させていたのだが、彼女の目標はストーリー漫画。「中国の手塚治虫になりたいのよ」というのが夢で、単身日本へ漫画の武者修行へ。女流漫画家佐伯かよのさんのアシスタントを一年やってから独立。今は結婚し、て東京在住で、子育てをしながら漫画を描いている。
 日本の漫画/コミック雑誌の低迷もあってか作品発表のチャンスが多くないのが悩み。昨年は一旦北京へもどり後進を育成するとともに漫画制作スタジオを設立。そこを弟に任せ自分が日本と中国の掛け橋となって仕事を開拓する体制をつくり上げたばかりのときに、このビッグチャンスが舞い込んできたというのだ。

 漫画版『夜宴―The Banquet―』を日本で出版したいという彼女の並々ならぬ意気込みに圧倒されながら、一先ず電話を切った。

 日本で中国漫画を出版するのはそう簡単じゃないけど、なにしろチャン・ツィー・イー主演の新作を原作とした作品だからチャンスはあるかもしれない。さっそくサンプルデータを送ってもらい、それをK川書店グループ出版社の社長をしている友人に話したところ、反応がよい。
 
 担当者をつけて可能性をすぐに検討させるということになったのだが……。映画配給会社とのタイアップが条件ということで交渉したもらったのだが、配給会社のプロモーション計画と漫画版『夜宴―The Banquet―』が合わずに結局話は流れてしまった。
 諦めきれないぼくは、ボイジャー社の萩野さんに相談をし、大手出版会社にも話を持ち込んでもらったが、やはり難しいという回答が返ってきた時には桜も咲いた三月末になっていた。

 自らの非力さを感じる結果になったが仕方ない、胡蓉に結果を伝えようとした時、ボイジャー社の萩野さんからもう一つだけ可能性があるのだけどやってみないかという提案があった。
 それは漫画版『夜宴―The Banquet―』の冒頭のカラー部分だけで携帯コミック版を制作しないかというもの。手弁当での仕事になるけど、ここまでやったのだからカタチにしない手はないという。
 昨年からケータイ読書市場が動きだし、それを牽引しているのがケータイコミックであることは知っていた。ボイジャー社がセルシス社、インフォシティ社と提携し、画像のコミックにもテキスト系の読み物にも対応できる携帯読書ビュアー「ブックサーフィン」を開発。これがケータイ書店に受け入れられて拡大中なので、そのプロモーション素材としても使えるという。

 さっそく胡蓉に確認をすると「十分に動いてもらったからもういいよ。それにこの作品は私の原案じゃないから、次は自分の作品で頑張る」と相変わらず前向きである。「ケータイコミックのことは知っているよ。どういう風になるか試してみるのも面白いわね」とOKが出た。

 北京にいる胡蓉の弟、胡暁青と連絡を取って元データの入手、画像処理まではよかったのだが、問題は吹きだしの日本語化。
 日常会話の中国語ならば何とかなるが、中国古代の宮廷劇だからぼくの中国語では心もとないので、友人のGU老師に助っ人を頼む。口頭で訳すのを聞き書きして、そのテキストを読みやすく校正してなんとか粗訳が出来たのだが、そこで問題が発生。中国語を日本語に訳す場合はどうしても文字数が倍近くにまで増えるのだが、これが吹き出しに収まらないのだ。
 文字フォントを小さくすれば今度は携帯画面で読めなくなる。ぼくの方でぎりぎりまで短くしたものを、ボイジャー社の制作陣が大胆に意訳してなんとか吹き出しに収まるようにして……、やっと完成した時にはGWも明けていた。

 映画の方の日本公開タイトルは『女帝(エンペラー)』というなんとも気の利かないものになったようだが、ケータイコミック版は原題のママとして公開することにし、ボイジャー社HPのTOPに大きく紹介された。

 胡蓉に連絡したら喜んでくれたのだが、もう彼女の頭は新作へと移っていたようで、「中国のスタッフたちが面白いネームをまとめたの。これの相談に乗ってくれない……」とまた早口でこれからの夢を語りだした。

 胡蓉は漫画家となるべくして生まれてきたのだろう。きっと彼女の夢は今後叶うに違いない。また彼女と合作するチャンスまでには、ぼくらの電子出版事業も軌道にのせたいと誓ったのだった。
コミック版『夜宴―The Banquet―』
中国語版 2006年9月9日出版
制作:漫客動漫遊科技(北京)有限公司
監修:胡蓉
(C)漫客動漫遊科技(北京)有限公司

ケータイコミック日本語版
制作:株式会社ボイジャー/有限会社 眺(ティアオ)

◇『夜宴―The Banquet―』
ケータイコミック日本語版はこちらから

<後日談>
数ヶ月前、この記事を目にした新聞記者の方からメールが入った。日中の漫画の架け橋として胡蓉を紙面で紹介したいのだがコンタクト先を教えて欲しいという。

さっそく胡蓉に連絡を入れたら、数日後、胡蓉の旦那さんから連絡が来た。なんと最近胡蓉に第二子(男の子)が生まれて今その子育てでてんやわんやという。
すぐに胡蓉から電話もあったが元気そうだ。もちろん取材の件は快諾。

その後、取材はどうなったかな、と気にかかっていたら先日の朝日新聞で紹介されたという連絡と紙面の画像が届いたので、ここでご紹介します。

胡蓉 朝日新聞記事

 



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