ジェラ−ル・フィリップに似た人 - 浴槽 la baignoire by 天沼春樹 マチともの語り-地域・物語り・短編小説
2005
28
May
Posted by 天沼春樹 on 12:15 / Category : 浴槽 la baignoire
 マルセル・シニエは若かりしころ、夭折した美男俳優のジェラール・フィリップに似ているといわれた。そういってくれたのは、従姉妹のフランソワーズだった。彼女はひどい近視だったけれど、あんたは彼にそっくりよ、と断言してはばからなかった。マルセルは映画なんか見なかったから、そんなものかと思っていただけだった。
 フランソワーズが、スペインに移住してしまってからこちら、マルセルに親しく話をしてくれる娘がいなくなった。郵便局に勤めながら、マルセルはスペインの従姉妹にせっせと手紙を書いた。五十をすぎたいまでも、彼女との文通はつづいている。彼女には、八人の孫がいる。マルセルからの手紙がとどくと、ほら、あのジェラール・フィリップにそっくりの叔父さんからの便りだよ、とみんなを呼び集めた。パリの消印をくいいるようにながめ、ひとつ手紙で三週間はもちきりだった。
 フランソワーズの孫たちも、ジェラール・フィリップが誰だか知らなかった。
 郵便局のマルセル・シニエは、その歳になってはじめて、名画座で『モンパルナスの灯』を観て、俳優のジェラール・フィリップを知った。そして、つぎの手紙で、ジェラールももう歳をとったから、どうかもうマルセルとだけよんでおくれと書き送った。すると、フランソワーズは、ひとこと、あれまあ、とだけいって驚いていた。マルセルも、フランソワーズの孫だちも、彼女がほんとうはジェラール・フィリップの映画を眼鏡なしで観たことを知らなかった。
photo by Yusuke Wakabayashi

 



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高校のときテレビで見たラディケの「肉体の悪魔」。その週はクラスの内輪でその話題でもりあがり、あれからジェラール・フィリップの名前は、確かに忘れられなくなったんです。ネットでみるとAldous Huxley オルダス・ハクスレー(リメイク?)の「肉体の悪魔」(71年)ってのもあり、興味津々。
on 05/28/05 at 13:53:PM